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大阪地方裁判所 昭和54年(行ウ)93号 判決

大阪市住吉区墨江第七丁目一九四番地

原告

角英吉

訴訟代理人弁護士

鈴木康隆

大阪市住吉区上住吉町一八一番地

被告

住吉税務署長

祝田昭次

指定代理人検事

小林敬

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告

被告が、昭和五一年九月二五日付で原告に対してした原告の昭和四八年分及び昭和四九年分(以下本件係争年分という)の所得税の更正処分(以下本件更正処分という)中、原告の総所得金額(事業所得金額)が昭和四八年分については一八二万二、七五九円を超える部分、昭和四九年分については二五〇万九、一四〇円を超える部分及びこれに対応する過少申告加算税賦課決定処分(以下本件賦課処分という)をいずれも取り消す。

訴訟費用は、被告の負担とする。

との判決。

二  被告

主文同旨の判決。

第二当事者の主張

一  本件請求の原因事実

(一)  原告は、鉄工業を営んでいる。

原告は、本件係争年分の各所得税の確定申告をしたが、その日時と内容及び確定申告後の課税に関する手続的経緯、内容は、別表1に記載されたとおりである。

(二)  しかし、本件更正処分は、原告の本件係争年分の事業所得金額を過大に認定した点で違法である。

(三)  結論

原告は、被告に対し、本件更正処分中、原告の事業所得金額が昭和四八年分については一八二万二、七五九円を超える部分、昭和四九年分については二五〇万九、一四〇円を超える部分の各取消しを求めるとともに、これに対応する本件賦課処分の取消しを求める。

二  被告の答弁

(一)  本件請求の原因事実中、(一)の事実は認める。

(二)  同(二)の主張を争う。

三  被告の主張

(一)  被告は、原告の本件係争年分の各所得税の調査のため部下職員を原告方に行かせ、本件係争年分の事業所得金額の計算の基礎となるべき帳簿書類等の提示を求めさせた。

しかし、原告は、事業に関する帳簿書類は勿論のこと、請求書、領収書等の原始記録さえ提示しなかつたし、取引内容等について具体的説明をしなかつた。

そこで、被告は、やむをえず原告の取引先等について調査をし、その結果に基づき本件係争年分の事業所得金額を算定のうえ、本件更正処分をした。

(二)  ところで、原告の昭和四九年分の事業所得金額は、別表2に記載のとおり四八九万五、二九一円であり、これに基づく昭和四八年分の事業所得金額は、別表3に記載のとおり三五五万〇、五五一円である。したがつて、本件更正処分は、これを下回るから適法であり、これに伴う本件賦課処分も適法であることは、いうまでもない。

(三)  その計算根拠は、次のとおりである。

(昭和四九年分)

1 収入金額 二、三一五万五、三五〇円

別表4に記載したとおりである。

2 製造原価 一、三四七万四、〇〇五円

別表2に記載したとおりである。

(1) 仕入 三四六万六、〇一八円

原告の主張する別表5の仕入金額中、番号2、3の仕入額を否認する。したがつて、仕入額は、別表2に記載した三四六万六、〇一八円である。

(2) 外注 四六一万九、七八七円

原告の主張する別表6の外注費中別表2に記載した二〇一万九、三二九円を否認する。したがつて、外注費は、四六一万九、七八七円である。

(3) 人件費 五三八万八、二〇〇円

原告の主張する昭和四九年中に支払われた給料等の人件費をそのまま認める。

3 一般経費 四四九万六、七六九円

被告は、原告の昭和四九年分の一般経費を算出するため、原告と同種の事業を営む他の納税者の一般経費率一九・四二パーセントを用い、収入金額にこの率を乗じて一般経費を算出した。

4 特別経費 利子割引料 二八万九、二八五円

原告が、昭和四九年中に、訴外紀陽銀行住吉支店及び訴外国民金融公庫堺支店に支払つた利息及び手形割引料の合計額である。

5 所得金額 四八九万五、二九一円

原告の所得金額は、右の1-2-3-4によつて得られる。

(昭和四八年分)

1 収入金額 一、六五三万八、七五一円

別表4に記載したとおりである。

2 所得率

別表2に記載したとおり、原告の昭和四九年分の所得率は、二二・三九パーセントである。

3 算出所得金額 三七〇万三、〇二六円

別表3に記載したとおりである。

4 特別経費 一五万二、四七五円

昭和四九年中の特別経費と同じ趣旨のものである。

5 所得金額 三五五万二、四七五円

原告の所得金額は、右3-4によつて得られる。

四  原告の認否と主張

(認否)

(一) 被告の主張中(一)の事実は、認める。

原告が調査に協力しなかつたのは、被告の部下職員が、問答無用式の高圧的態度に出たからである。

(二) 同(三)について

(昭和四九年分)

1 収入金額

別表4のうち番号6の取引はないが、そのほかの取引は認める。したがつて、収入金額は、別表2に記載したとおり、二、三一三万一、三五〇円である。

2 仕入は、別表5に記載したとおり、三八一万三、五〇一円である。

3 外注費は、別表6に記載したとおり、六六三万九、一一六円である。

4 人件費、一般経費率は、被告の主張どおり、五三八万八、二〇〇円、一九・四二パーセントであることを認める。

(昭和四八年分)

収入金額は、別表4に記載したとおり、一、六五三万八、七五一円である。

(主張)

(一) 昭和四九年分

原告の昭和四九年分の所得金額は、別表2に記載したとおり、二五〇万九、一四〇円である。

(二) 昭和四八年分

原告の昭和四八年分の所得金額は、別表3に記載したとおり、一八二万七、五九五円である。

(三) まとめ

原告の本件係争年分の所得金額は、右のとおりであるから、これを超える本件更正処分は、その部分について取消を免れないし、したがつて、これに伴う本件賦課処分も取り消されなければならない。

第三証拠関係

本件記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから、ここに引用する。

理由

一  本件請求の原因事実中、(一)の事実は、当事者間に争いがない。

二  被告の主張中、(一)の事実は、当事者間に争いがないから、被告が、原告に対し、やむを得ない場合として本件係争年分について推計による課税をしたことは、是認されなければならない。

原告は、この点について、被告の部下職員の高圧的態度に出たことを理由に、税務調査を拒んだと主張しているが、本件に顕われた証拠を仔細に検討しても、そのことが認められる証拠は、見当たらない。したがつて、原告のこの主張は、採用しない。

三  原告の昭和四九年分の所得について

別表2にその争点が明確にされているから、順序これについて判断をする。

(一)  収入金額について

1  別表4のうち、天美工芸社の分をのぞくその余の取引については、当事者間に争いがない。

2  天美工芸社分二万四、〇〇〇円の取引があつたかどうかについて

証人角照子の証言によると、原告の妻訴外角照子が訴外中尾某に原告に内緒で金を貸していたところ、中尾某は、その返還のため天美工芸社が振り出した小切手を持参した。したがつて、この小切手は、原告と天美工芸社との取引と関係がないことになる。しかし、角照子は、中尾某に対し、何時、いくら金を貸したのかを明確に証言できないのである。

当裁判所が真正に作成されたものと認める乙第二一号証、同第二三号証、証人角照子の証言によると、天美工芸社が振り出した四通の小切手(乙第二一号証を参照)は、角照子名義の普通預金口座に入金されているが、この口座は、原告の取引に使われていたことが認められ、この認定に反する証拠はない。

そうすると、天美工芸社の小切手は、原告との取引によるものであると推認した方が、中尾某の借金の返済によるとみるより合理性があるとしなければならない。

3  以上の次第で、原告の収入金額は、被告主張どおり二、三一五万五、三五〇円になる。

(二)  製造原価について

1  仕入

(1) 別表5のうち、イワサ磨鋼材分、向陽鋼材分をのぞくその余の取引については、当事者間に争いがない。

(2) 当裁判所が真正に作成されたものと認める乙第三六、三七号証の各一、二(二については原本の存在も認める)によると、被告主張どおり、イワサ磨鋼材分が五三万六、五四六円であることが認められ、この認定に反する証拠はない。

(3) したがつて、仕入は、被告主張どおり三四六万六、〇一八円になる。

2  外注

(1) 別表6のうち、別表2に記載された二〇一万九、三二九円をのぞくその余の取引は、当事者間に争いがない。

(2) 向陽熱処理分五万五、四四〇円(甲第二三号証の一〇)

喜田工作分 一、八六九円(同第二四号証の八)

角製作所分 六万八、四〇〇円(同第二五号証の二)

大徳歯車分 一万九、〇〇〇円(同第二六号証の五)

西田鉄工分 二八万五、〇〇〇円(同第二九号証の四)

以上に掲記した甲号各証は、いずれも領収書であつて、その日付は、昭和五〇年一月である。これには、原告が、外注先に昭和四九年中に注文を出してその納品があつた後、昭和五〇年一月になつてその代金を外注先に支払つたことになる。

そこで、現金主義所得計算方法(所得税法六七条の二、同法施行令一九六条参照)に従い、これらの外注費は、すべて昭和五〇年分の経費として計上するのが至当である。したがつて、被告のこの点に関する主張を採用し、原告の主張額から、これらの外注費を除外して計算する。

(3) 向陽熱処理分 九、二〇〇円(甲第二三号証の一)

昭研クローム分 四万〇、四二〇円(同第二七号証の一)

以上に掲記した甲号各証の請求書は、昭和四九年一月中のものであるから、原告は、昭和四九年中にこの請求書どおりの金額の支払いを外注先にしたと推認される。したがつて、これは、昭和四九年分の経費として計上するのが至当であり、被告のこの点に関する主張を採用しない。

(4) 前田鉄工所分一五四万円について

証人滝川美津男の証言や原告本人尋問の結果によると、原告と前田鉄工所との間で月々二二万円から二三万円の外注取引があつたことになる。しかし、これを裏付ける領収書は一切提出されない。別表6によると、前田鉄工所に対する一五四万円は、原告の外注先としては大口取引に当たる。このような大口取引について、領収書その他の確定的証拠によらないで、ただ前記証言や本人尋問の結果だけでたやすく前田鉄工所に対し一五四万円も支払われたとするのは、無理である。

(5) 以上の次第で、原告の昭和四九年分の外注費は、四六六万九、四〇七円(被告主張額に被告が昭和四八年分であることを理由に除外した四万九、六二〇円を加えた額)になる。

3  人件費

原告の昭和四九年分の人件費が、五三八万八、二〇〇円であることは、当時者間に争いがない。

4  まとめ

原告の昭和四九年分の製造原価は、一、三五二万三、六二五円になることは、計算上明らかである。

(三)  一般経費

一般経費率が、一九・四二パーセントであることは、当時者間に争いがないから、原告の昭和四九年分の一般経費は、被告主張どおり四四九万六、七六九円になる。

(四)  算出所得金額

右(一)-(二)-(三)によつて得られた五一三万四、九五六円が、算出所得金額である。

(五)  特別経費

原告の昭和四九年分の特別経費が、二八万九、二八五円であることは、当時者間に争いがない。

(六)  所得金額

原告の所得金額は、算出所得金額から特別経費を控除した四八四万五、六七一円であることは、計算上明らかである。

四  原告の昭和四八年分の所得について

(一)  収入金額について

1  別表4のうち、天美工芸社分及び石原洋分をのぞくその余の取引については、当事者間に争いがない。

2  天美工芸社分四万一、〇〇〇円及び石原洋分一二万円の天引は、前掲乙第二一号証、同二三号証、当裁判所が真正に作成されたものと認める同第二二号証、証人角照子の証言及び原告本人尋問の結果の各一部によつて認められ、この認定に反する証人角照子の証言及び原告本人尋問の結果の各一部は採用しないし、ほかにこの認定に反する証拠はない。

3  まとめ

そうすると、原告の昭和四八年分の収入金額は、被告の主張どおり一、六五三万八、七五一円になる。

(二)  所得率

原告の昭和四九年分の所得率が、二二・一七パーセントになることは、計算上明らかである。

〈省略〉

(三)  算出所得金額

原告の昭和四八年分の算出所得金額は、三六六万六、六四一円になる。

16,538,751円×22.17%=3,666,641円

(四)  特別経費

原告の昭和四八年分の特別経費が一五万二、四七五円であることは、当事者間に争いがない。

(五)  所得金額

原告の昭和四八年分の所得金額は、算出所得金額から特別経費を控除した三五一万四、一六六円であることは、計算上明らかである。

五  まとめ

原告の昭和四八年分の所得金額は、三五一万四、一六六円であり、昭和四九年分のそれは、四八四万五、六七一円であるから、この範囲内でされた本件更正処分は適法であり、これに伴う本件賦課処分も適法である。

六  むすび

原告の本件請求は失当であるから棄却し、行訴法七条、民訴法八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 古崎慶長 裁判官 孕石孟則 裁判官 浅香紀久雄)

別表1 原告の係争各年分所得税の課税関係一覧表

〈省略〉

別表2 昭和49年分

〈省略〉

別表3 昭和48年分

〈省略〉

別表4

本件係争年分の収入金額(取引先とその金額)の明細

〈省略〉

別表5 昭和49年中の原告の仕入額

〈省略〉

別表6 昭和49年中原告の外注費

〈省略〉

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